アメリカのショッピングモールの現状 ~新型コロナが明けた現在の客足は~

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スマートフォンの位置情報を利用して、人の流れを可視化しているアメリカの調査会社大手のプレイサー・エーアイ(Placer.ai)社が先日発表したデータによると、アメリカのショッピングモールへの客足(※)は健全なペースでパンデミック前の水準に戻りつつあるということです。

※ここではモールへの客足をモール・トラフィック(トラフィック)と呼びます。

モールタイプ別・事案大別トラフィックデータ

2020年早々に拡大した新型コロナウイルス(Covid-19)によるパンデミックにより、すべてのタイプのショッピングモールへのトラフィックは減少し、その減少幅は10.7%~15.3%でした。しかし2022年に入るとモールへのトラフィックが徐々に再開され始め、2023年5月に非常事態宣言が解除されると、すべてのモールへのトラフィック平均は2019年の数値までわずか2.3%というところまで回復しました。最も回復が進んだのはオープンモールで、2019年との差はわずか1%となっております。これに対してインドアモールは2022年時点の11.3%減から現状5.8%減ということで、このタイプのモールへのトラフィックの回復が一番遅れているようです。

次のグラフは、Placer.ai社がウィークデイにおけるそれぞれのモールへのトラフィック率を時間帯別にまとめたものです。

※Placer.ai社データによる

これはあくまでも全体のトラフィックを100として、時間帯別のトラフィックを分析したもので、モールタイプによるトラフィックの比較をしたものではありません。

コロナ禍で生まれたリモートワーカーの多くがオフィスに戻ったため、平日の早朝や深夜のショッピングモールへの訪問がわずかに減少しています。しかし、平日の午後から夕方にかけての訪問は増え続けています。インドアモールを例にとると、平日の16:00から19:00までのトラフィックの割合は、2019年の29.1%から2023年には32.4%に上昇しました。13:00から16:00の間のトラフックも28.4%から29.4%にわずかですが上昇しました。

トラフィックを押し上げている新たな要因

また、パンデミックとは無関係に、トラフィックを押し上げている大きな要因の1つは、ショッピングモールへの新しいエンターテインメントや飲食テナントの増加です。

2024年4月に、アメリカの大手ニュース専門チャンネルのシーエヌビーシー(CNBC)が出したレポートによると、これまで多くのモールにおいて長年にわたり広大な販売スペースを確保し、モールへのトラフィックを誘因する大きな力となってきたJCペニー(JC Penny)、シアーズ(Sears)、メイシーズ(Macy’s)といったデパート業態が核テナントとしての存在感や集客力を失い、むしろモール・トラフィックの動脈硬化現象の最大要因となってきており、特にクラスAモールと呼ばれる一流のモールは数年前から体験型モデルへと方向転換を進めているとのことです。

デパートの代わりに人気グロサリーストアや、フィットネスジム、アイススケートリンク、カジノといったエンターテインメント施設が新たな核テナントとして集客の役割を担うことになりつつあり、この新たな食、エンターテインメントの核テナントを指して「イータテインメント(Eatertainment)」という造語も生まれました。

新規テナント誘致で成功しているモール

参考まで、新たなテナントの誘致で成功しているモールを3例ご紹介します。

①Chandler Fashion Center

アリゾナ州フェニックス市郊外のチャンドラー(Chandler)に2001年にオープンしたリージョナル・ショッピングセンターで、2023年9月に新テナントとして入居したスポーツ用品およびエンターテインメントのチェーンストアであるシールズ(Scheels)がオープンすると、トラフィックが前年比で10月に45%、11月、12月は30%も押しあげられたことが地元だけでなく全米でニュースになりました。因みに2024年2月のトラフィックも前年比で23.3%増と好調を維持しています。

②Southgate Mall

モンタナ州ミズーラのモールですが、2023年11月にテキサスロードハウス・ステーキハウスが新たなテナントとしてオープンしたことを受けて、月間のトラフィックが急増し、2024年2月のデータは前年比で17%増となりました。

③Cross Creek Mall

ノースカロライナ州ファイエットビルにあるモールですが、2023年8月にレーザータグ、バーチャルリアリティ、18レーンのボウリング等のエンターテインメント関連テナントを追加し、最新のトラフィックデータでは2024年1月が12.3%増、2月が25.1%増といずれも前年比で大幅な集客増となっています。

2017年6月に配信したメールマガジン「再活性化を目指す!米国モールの現状と取組」では、衰退する米国のモールと生き残り戦略に焦点を合わせてご紹介しておりますので、併せてお読みいただければと思います。

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アメリカに現在約1,100あるショッピングモールのうち、20~25%が2022年までに閉鎖されるであろうという調査結果が、スイスに拠点を持つ世界有数の金融機関であるクレディ・スイス(Credit Suisse)社から発表されていますので、ご紹介します。 同社はショッピングモールの閉鎖の大きな要因を3つ、以下のようにまとめています。 ① ここ数年急速に伸びているオンライン・ショッピングへのシフト 過去1年間にアメリカ人の約96%がオンラインでのショッピングをしたというデータがありますが、それでも2016年度の全米小売売上におけるオンラインによるショッピングの占める割合はわずか7.7%です。 今後もオンラインでのショッピングの割合が増えていくことが確実視されている中で、モールからの客離れが更に加速することが予想されます。 以下は国別に全小売売上におけるオンラインの割合をまとめたものです。  (2017年、2018年は予測数値) ※eMarketer社による数値 全米小売業協会(NRF)によると、2016年の11月と12月の2か月間のオンラインによる売り上げは、前年同月比で約13%の伸びを示したのに対し、デパート全体の売り上げは約7%落ちたということです。更に、例年年末商戦の幕開けとして一年で最も売り上が伸びるといわれるブラックフライデーにおいても、昨年は実店舗で買い物をした消費者が約9,900万人であったのに対して、オンラインで買い物をした人が約1億900万人であったということからも、ショッピングのオンライン化がわかります。 ① オフプライス店舗の躍進によるモール離れ 4月のメールマガジン「実店舗の栄枯盛衰・・・北米小売企業の最新事情」で特集しましたが、実店舗でも、TJX、ROSS、バーリントン(Burlington)や、ファイブビロー(Five Below)といったオフプライス企業の業績は伸びています。   またオフプライスチェーンの店舗の多くがモール外に出店しており、消費者のモール離れにつながっていると考えられます。 ② アンカーテナント(核テナント)の業績不振今までモールの核テナントとして集客の中心となってきた、メイシーズ(Macy’s)、J.C.ペニーJ.C.PENNY)やシアーズ(SEARS)といったデパートやGMS企業も、上述のオンラインやオフプライス企業の躍進による影響により、かつての集客力を発揮できずに業績不振に陥り、多くの店舗を閉鎖することを余儀なくされています。 モールの複数フロアを占有する核テナント企業の業績は、モール事業の成否を決める最重要事項であり、核テナントの業績不振はモール自体の営業にダイレクトな影響を及ぼします。実際に核テナントの業績不振によるモールからの撤退により、閉鎖に追い込まれたり、ゴースト化しているモールもみられます。 以下のグラフはREIS(商業用不動産情報サービス企業)の統計ですが、2017年の第一四半期のリージョナルモールの空室率は7.9%で、ストリップモール(建物外からのみ各店舗に入店できる形態のモール)は9.9%ということで、高い空室率となっています。 ※グラフはREIS (アメリカの商業用不動産情報企業)による また、核テナント以外でも、かつてモールにおいて集客に大きく貢献していた一般のテナント企業の倒産や店舗縮小も、モール不振の大きな要因となっています。(以下代表例) *ベベ(Bebe)  女性向けアパレルチェーン、全店(約180店舗)閉鎖 *アバクロンビー・フィッチ(Abercrombie & Fitch) アパレルチェーン、60店舗閉鎖 *ゲス(Guess) アパレルチェーン、60店舗閉鎖 *リミテッド(The Limited)  アパレルチェーン、全店(約250店舗)閉鎖 クレディ・スイス社によると、2017年度の全米における店舗閉鎖は、2008年のリーマンショック時の6,163店舗をはるかに上回る、8,640店舗になるであろうとのことです。 ※クレディ・スイス社データによる このように厳しい環境変化の中で、今後もモール生き残っていくための条件として、以下の3点が挙げられています。 ①富裕層の住む都心部に位置していること ②ニーマン・マーカス(Nieman Marcus)やサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)といった高級デパートを核テナントとし、主要テナントにも高級小売企業を揃えるAグレードのハイエンドモールであること ③ツーリストに人気のエリアであること 上記の条件をみたした以下の3つのモールが代表的な成功事例として考えられます。 ①オキュラス・ウェストフィールド・ワールドトレードセンター (Oculus – Westfield World Trade Center) ニューヨーク ②ラスベガス・ダウンタウン・コンテナパーク(Las Vegas Downtown Container Park) ③マイアミ・ブリッケル・シティセンター(Miami’s Brickell City Center) いずれのモールも条件を満たしているだけではなく、「都市の中に新たな都市を創造する」というコンセプトで、多くの集客につなげています。 ただ、アメリカのモールの過半数は上記の条件に当てはまらないため、核テナントを従来のデパートやGMSから他の業態(レストラン、スーパーマーケットチェーンやエンターテイメント)に切り替えることで再活性化に取り組んでいます。。総合不動産サービス大手のJLLが発表している事例を一部ご紹介します。 他にも空室となっているモールスペースとパーキングスペースを、オンライン小売りの最終配送(ラスト・マイル)のためのハブ拠点とする動きもあります。 モールにとって厳しい時代ですが、モールの再活性化のための様々な新しい取り組みに、今後も注目をしていきたいと思います。

これからもアメリカだけでなく、世界のモールの最新情報に注目してきます。

(2024.7.30配信/記事作成:イオンコンパス(株)海外仕入部)

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