2023年5月に足掛け3年にわたり続いた新型コロナウィルスによるパンデミックは、日本では感染法上の分類がこれまでの2類から5類に緩和され、本格的なウイズコロナの生活に入りました。 また、アメリカも2020年3月に宣言した「国家非常事態」を今年5月に解除しパンデミック前の日常にシフトしました。
この未曾有のパンデミックにより多くの産業が打撃を受けましたが、今回はアメリカの小売業、特にグロサリー小売について、パンデミックの前年(2019年)から現在までの変遷について簡単にまとめていきたいと思います。
パンデミックの前年の2019年、アメリカ経済は前年比2.3%成長し、小売業全体の売上も5.4兆ドルを記録し、2018年の5.2兆ドルから4.5%の成長を記録するなど堅調な伸びを示していました。
2020年初頭も楽観的な予測が発信されており、アメリカの資産運用企業大手アライアンス・バーンスタイン(Alliance Bernstein)のシニアエコノミストも「現在の経済は非常に安定しており、経済の基本的な軌道を変える必要性は見つからない」と述べておりました。
しかし、2020年3月に入り新型コロナウィルスが世界的規模の拡大を見せると、それまでになかった新たな日常が始まりました。
マスクの着用と手指消毒が感染予防になると報道されると「パニック買い」により商品が小売店舗の棚から消え、小売店舗内で周りの人間との距離を取る「ソーシャル・ディスタンス」という新しい言葉も生み出されました。
日本でもマスクや消毒液が小売店舗の棚から消え、2020年の年末まで入手することが困難な状況が続き、日本政府が日本国内すべての家庭に2枚ずつマスクを配布したことも記憶に新しいと思います。
さて、この2020年3月以降のパンデミック中にアメリカのグロサリー小売市場において
発生した大きな変化を以下の通りまとめてみました。
1 | グロサリー小売売上高が2020年3月からわずか4か月で800億ドル減少 |
2 | アメリカ最大のキャッシュバックアプリのアイボッタ(Ibotta)のキャッシュバック需要が26%増加、グロサリーが33%の上昇 |
3 | 店舗での1回の買い物品数が12.5個から20個に増加⇒買いだめ習慣の始まり |
4 | オンラインショッピングが2020年夏の4.5%から秋には12%に急上昇、2021年9月に9%に落ち着いたものの、2027年には13.6%になるという予測が発表された *クローガーのCEO「わずか2週間で3年分のeコマースの成長が見られた」と発言 |
5 | 2021年に入り店舗でのショッピング習慣が復活し、2021年第4四半期の客足は前年同期比で12%上昇(placer.aiデータ) |
6 | 2021年2月から2022年10月の期間にグロサリー価格が平均18%急騰(Ibottaデータ)⇒急速なインフレの始まり |
7 | 2022年第1四半期以降グロサリー小売企業の食料品宅配アプリのダウンロードが前年同期比で40%上昇 |
8 | アメリカのインフレ率が2021年4月2.6%、7月5.4%、2022年7月に9.1%、8月に1979年5月以来最大の11.4%、9月も11.2%と急上昇⇒2023年9月時点で3.2% |
パンデミックの間、人との接触をできるだけ避けるためショッピング習慣のオンライン化が急速に進み、同時に高インフレ率が大きな社会問題となりました。
このインフレ下で、より価格が安く品質の良いプライベートブランドに対する消費者の関心が高まり、現在に続いています。
大手調査会社Circana(旧NPD Group)社によると、2023年度第1四半期(3月26日終了)の北米グロサリー小売市場におけるプライベートブランドの売上が、前年同期比で10.3%増と大幅にアップしたということです。
これによりグロサリー小売の北米市場における売り上げベースのシェアは19.1%(前年18.5%)となりました。(ユニットベースのシェアは20.8%:前年20.3%)
緩やかになったとはいえ長期化するインフレ環境が低価格なプライベートブランド商品の売り上げを押し上げたかたちとなりました。
グロサリー17部門のうち15部門でプライベートブランドの売上が伸びたということです。
また特定の小売企業へのロイヤルティの低下という現象も起きており、それまでウォルマートに見向きもしなかった年収10万ドル以上の富裕層の実に75%が、このインフレ下でウォルマートでの買い物をしたということです。
なお最新の情報では、ウォルマートのCEOダグ・マクミロン氏は、今後数か月以内にアメリカにおいてインフレからデフレに切り替わるだろうと予測しており、危機感を感じていると話しています。
パンデミックが一段落したとはいえ、現在アメリカに存在する約100万店舗の小売店のうち2028年までに5万店舗以上が消失すると言われています。
ベッド・バス&ビヨンドやライト・エイドといった大手小売企業が相次いで経営破綻するなど不透明感の続くアメリカ小売市場ですが、今後もウォッチして行きたいと思います。
(2023.12.7配信/記事作成:イオンコンパス(株)営業戦略部)