昨年12月配信のメールマガジン「2019年米国小売総括&年末商戦速報」にて、アメリカにおける小売店舗の閉鎖が記録的に増えてきているとご報告しましたが、昨年1年間だけで結果的に9,300店舗以上の店舗が閉鎖されたと、アメリカ小売り業界シンクタンク大手のコアサイト・リサーチ(Coresight Research)社が発表しました。
しかし、このような環境下でも堅調に店舗数を伸ばしている業態の一つとして、ハード・ディスカウント業態があります。同業態はドイツ発のアルディとリドルの2社が代表的な企業であり、アメリカ進出の状況は過去のメールマガジンでも何度かご紹介してきました。
1976年にアメリカに進出したアルディは、現在約53億ドルを投じた5年計画の大規模な店舗拡張とアップグレードのプロジェクトを進行中です。現在は36州で約1,900店舗を展開していますが、2022年末までに2,500店舗まで店舗網を伸ばす予定となっており、プロジェクト完了後にはウォルマートとクローガーに次いで3番目の店舗数になるものとみられています。
2017年に満を持してアメリカ進出を果たしたリドルは、現在東海岸を中心に9州で89店舗(2020年1月)を展開しています。昨年はニューヨークを拠点とする家族経営のスーパーマーケットチェーン「ベストマーケット」の27店舗の買収を発表し、2020年からニューヨークおよびニュージャージーに本格的に出店を予定しています。
また、アルディ、リドルの両社は英国でも大きな影響力を持っており、英国の食品小売市場において、かつて85%以上の市場シェアを独占していたBIG4と呼ばれる地元企業4社(テスコ、セインズベリー、アズダ、モリソンズ)の牙城を急激に侵食しています。
当社のメールマガジンでも、2019年10月の「ビッグ4に黄色信号!? 英国食品小売企業最新マーケットシェア」をはじめとして定期的に英国の食品小売り市場について取り上げて来ましたが、英国の市場調査会社のカンター・ワールドパネル(Kanter World Panel)社の最新のデータ(2019年12月29日)では、この4社のシェアは68.5%まで落ち込んでいます。
アルディとリドルの2社が今後もアメリカのグロサリー小売市場に大きな影響を与えて行くのは間違いないと思われますが、近年このハード・ディスカウント業態において急速に注目されている、グロサリー・アウトレット(Grocery Outlet)という企業をご紹介します。
企業名 | グロサリー・アウトレット・バーゲンマーケット(Grocery Outlet Bargain Market) |
本社所在地 | カリフォルニア州エミリービル |
公式H/P | https://groceryoutlet.com/ |
売上高 | 22億8766万ドル(2018年12月決算) |
店舗数 | 337店舗(2019年12月決算時点) |
主な出店エリア | 全米6州(カリフォルニア、オレゴン、アイダホ、ワシントン、ネバダ、ペンシルベニア) |
同社の創業は1946年にアメリカ軍から食料品や日用品の余剰品を仕入れ、格安で販売を開始したのが始まりで、現在は全国のナショナルブランドのサプライヤーから、在庫余剰品、消費・使用期限の短い商品等を直接仕入れて、一般のスーパーマーケットよりも40%から70%も安い価格で提供するというビジネスモデルで展開しています。15期連続で対前年売り上げを大きくクリアし、成長してきた企業です。
取り扱い商品の90%以上が独自ブランド製品で安さを訴求しているアルディやリドルとは違い、ナショナルブランドの商品の仕入れを工夫することで更に安い価格を提供し続けている同社は、ハード・ディスカンターを超えたディープ・ディスカウンターとも呼ばれており、価格競争で優位に立つアルディ、リドル、ウォルマートといったメジャーな企業にとっても脅威となりつつあります。
グロサリー・アウトレットの平均的な店舗サイズは約4,500㎡で、4,000品目を超える食料品、日用品やビール、ワインなどを扱っています。また、各店舗では500品目を超えるNOSH商品(Natural, Organic, Specialty, Healthyの頭文字)を取り入れるなど、価格の安さだけでなく品質にも重点を置いています。
同社は1,500を超えるサプライヤーから日々、商品の仕入れを行っており、店舗に並ぶ商品も毎日変わります。消費者にとって、宝探しのようなショッピング体験ができる楽しみと、圧倒的な価格の安さによる2重の驚き(Wow)体験を提供しているため、グロサリー業界のTJX(オフプライス小売り企業)とも呼ばれています。
2019年にはオーストラリアのスタートアップ企業で、オンラインプラットフォームを介したサプライヤーと小売り企業のマッチングサービスを提供しているレンジミー(RangeMe)社と契約し、新たに15万社のサプライヤーから60万を超える商品の仕入れも可能としました。
2019年6月にはナスダック市場(NASDAQ)への上場を果たしています。上場時の株価は22ドルでしたが、2020年1月14日時点では33.65ドルとなり、右肩上がりの成長を遂げてます。
アメリカの持ち株会社コーウェン(Cowen)のアナリストは、グロサリー・アウトレットが70年間積み上げてきた信頼は非常に厚く、更に同社の独自のビジネスモデルは昨今流行りとなっているEコマースでは決して再現できないものであるとして、グロサリー・アウトレットの株はまさに「買い」であると、高く評価しています。また、グロサリー小売市場において最も重要なものは「価格」であると消費者の88%が回答しているという英国の調査会社ユーガブ(YouGov)のデータも引き合いに出してグロサリー・アウトレットの株を推薦しています。
さらに、グロサリー・アウトレットがメインに店舗展開をしているカリフォルニア州サンフランシスコにおける主なグロサリー企業の価格分析をご紹介します。アメリカの消費者向け情報誌の発行をしているコンシューマーズ・チェックブック(Consumers’ CHECKBOOK)社が2018年9月に発表したデータです。
全体平均を100とした場合の各社の平均価格を主な商品別に出しているものですが、ご覧の通りいずれの部門でもグロサリー・アウトレットが圧倒的な価格を実現していることが分かります。
企業名 | 生鮮食品 | 精肉 | 全体 |
---|---|---|---|
フードマックス(FoodMaxx) | 80 | 79 | 85 |
グロサリー・アウトレット(Grocery Outlet) | 61 | 76 | 70 |
ラッキー(Lucky) | 102 | 104 | 101 |
ルナルディーズ(Lunardi’s) | 98 | 117 | 111 |
レイリーズ(Raley’s) | 109 | 95 | 102 |
セーフウェイ(Safeway) | 108 | 98 | 102 |
スプラウツ(Sprouts Farmers Market) | 79 | 83 | 90 |
グロサリー・アウトレットは2019年1年間で32店を新規出店しましたが、将来的には全米で4,800店舗まで増やしていく予定ということです。
現在西海岸(カリフォルニア)をメインとしているため、アルディ、ウォルマート、フード4レスやスプラウツ・ファーマーズマーケットとの競合を見ることが可能です。東海岸のペンシルベニアではアルディ、リドル、フードライオン、ジャイアント・イーグル、ウェグマンズといった企業との比較も面白いのではないでしょうか。
今後アメリカのグロサリー市場における重要な注目企業としてグロサリー・アウトレットを加えたいと思います。
(2020.01.17配信/記事作成:イオンコンパス(株)営業推進課)