これまでメールマガジンにて、食品小売りの激戦区としてノースカロライナ州のトライアングル地区とバージニア州のリッチモンドについてご紹介してきましたが、やはり多くの小売企業から注目されているのは、全米の最大都市圏である東海岸ニューヨーク・ニュージャージー地区と、西海岸ロサンゼルス地区ではないでしょうか。
ただし、この2つの地区は小売店舗スペースの賃料において、全米で1位、2位となっており、小売企業にとっては大きな負担となっているのが現状のようです。世界的不動産サービス企業のクッシュマン&ウェイクフィールド(Cushman & Wakefield)社が2017年11月に発表した調査結果では、ニューヨークの5番街の年間平均賃料が1平方フィート当たり約3,000ドルとのことで、これは銀座の約2.5倍(1,200ドル)にあたる賃料とのことです。また、ロサンゼルスのロデオドライブの年間平均賃料は約875ドルということです。
ニューヨーク最大の不動産仲介業のダグラス・エリマン(Douglas Elliman)社によると、高額な賃料の影響もあり、マンハッタンの小売店舗の空室率が、2016年に7%程度だったものが2018年になって約20%にまで拡大しているとのことです。ブロードウェイだけでも188店舗分の空きスペースが存在しており、世界で最もゴージャスなゴーストタウンとレポートされています。
このような状況の中、アメリカ西南中部に位置するテキサス州のダラス・フォートワース地区が、ここ数年多くの食品小売企業から注目されている市場となっています。
このダラスが注目されている代表的な理由は以下の通りです。
①小売店舗の年間平均賃料安価である
中心部のハイランドパークでも1平方フィート当たり約175ドルと、マンハッタンの17分の1、ロサンゼルスの5分の1と破格である。
②2010年以降の人口増加が顕著である
アメリカ合衆国国税調査局のデータでは、2010年から2017年までの人口増加率が15.15%と報告されている。ニューヨーク地区の3.85%、ロサンゼルス地区の4.09%と比べ大幅に増えている状況である。特に2016年単年で、新たに14万3千人強が転入している。
③10年間で経済状況が大きく変化している
2006年から2016年の10年間での経済状況の変化において、全米都市の中で最も変化した都市ランキングの2位となっている。アメリカ合衆国商務省経済分析局のデータでは、トヨタ自動車の工場をはじめとする企業の流入や、犯罪率の43%減少、平均所得の23%のアップ等の影響により、2011年以降毎年約4%前後の経済成長率を実現している。
ダラスは以前から小売企業の競争が激しく、注目されてきたエリアですが、上記のように、企業や人の流入に伴って市場が改めて活性化したことで、近年、再び注目を浴びています。特にここ数年は、小売企業のオンライン対応のための実験都市として注目されており、多くの企業がこの地で様々な取り組みを行っていると、ダラスの地元紙であるダラス・モーニングニュース(The Dallas Morning News)社が報じています。
以下に企業の具体的な取り組みについて、いくつかご紹介します。
ウォルマート(Walmart)は、ダラス地区を同社最大のマーケットと捉えており、現在は一旦停止しているスキャン&ゴーの実験をダラス地区の10店舗で開始しています。また、オンラインで注文した商品を店舗駐車場で受け取るカーブサイドピックアップサービスや、同社初のガソリンスタンド併設コンビニエンスストアもこの地で最初に導入をしました。現在は、オンラインで注文した食料品を含む商品を店内で自動ピックアップタワーで受け取ることができるサービスを20店舗で展開していますが、2018年末までに新たに4店舗、2019年早々に7店舗で導入する予定です。
クローガー(Kroger)は全米で出店する店舗の約4割をダラス・フォートワース地区に集中させています。また同社のカーブサイドピックアップサービスであるクリックリスト対応店舗の導入に力を入れており、ワインの宅配サービスについてはダラス地区でいち早く導入する予定となっています。 この背景には、今年の6月にアマゾンがテキサスエリアで、ビールとワインの宅配を開始したことが関係していると言われています。
ダラスで人気の企業であるH-E-B / セントラルマーケット(H-E-B / Central Market)も食品宅配の専門企業のシプツ(Shipt)とインスタカート(Instacart)との提携により、食品宅配とカーブサイドピックアップに対応しています。
サムズ・クラブ(Sam’s Club)は、ダラス・フォートワース地区の最新の注目店舗を間もなくオープンさせます。サムズ・クラブはウォルマート傘下の会員制倉庫型店舗で、2018年11月にサムズ・クラブ・ナウ(Sam’s Club Now)をオープンさせる予定です。アマゾンがシアトル、シカゴ、サンフランシスコでオープンしたレジ無しコンビニに対抗したコンセプトで、従来のサムズ・クラブの約4分の1のサイズ(約3,000㎡)の店舗に約700台のカメラやセンサーを設置し、在庫管理やセキュリティ管理を行う予定とのことです。買い物は専用のモバイルアプリをダウンロードして、商品をスキャンしながら決済まで行うというシステムになります。 このシステムは既にサムズ・クラブ全店に導入されていますが、新たな店舗ではビーコンやAR(拡張現実)を利用した、一歩進んだ店内サービスを展開する予定です。アプリ内に購入予定の商品を事前に入力するショッピングリストを作っておくと、入店時に最も効率的な買い物ルートを画面上に表示したり、音声入力で商品の場所を表示させることができるということです。
最後に、前述のダラス・モーニングニュースの電子版がまとめたダラス・フォートワース地区の最新の食品小売市場ランキングをご紹介します。
ダラス・フォートワース地区は上記のように小売企業各社の最新の取り組みが積極的に行われており、シェア争いも過熱しています。同地区の食品小売マーケットは、現在約175億ドルの市場と言われており、全国展開をしているウォルマートとクローガーが2大勢力となっていますが、地元企業のトム・サム(Tom Thumb)や前述のH-E-B / セントラルマーケット等が非常に元気で、そこにウィンコ・フーズ(Winco Foods)、スプラウツ・ファーマーズマーケット(Sprouts Farmers Market)やアルディ(Aldi)といった伸び盛りの企業等が熾烈な争いを繰り広げています。
現在東海岸のみで少しずつ店舗を増やしているリドル(Lidl)も、ダラス・フォートワース出店を睨んで準備中という情報もあり、この地でも最大のライバルであるアルディとの競合が実現する日も近いと思われます。今後も伸びることが予想されるダラス・フォートワースの小売市場にこれからも注目です。
(2018.11.1配信)