ウォルマート(Walmart)が同社の傘下企業で、英国市場3番目のシェアを持つアズダ(Asda)を、シェア2番目のセインズベリーズ(Sainsbury’s)に売却することで合意したという大きなニュースが、4月末に発表されました。英国の食品小売市場については、今年の3月のメールマガジン「独アルディに対抗!英国小売業最新事情」にてご紹介したばかりですが、改めて最新事情をお伝えします。
テスコ(Tesco)、セインズベリーズ(Sainsbury’s)、アズダ(Asda)およびモリソンズ(Morrisons)の4社がビッグ4と呼ばれて久しい英国の食品小売市場ですが、今回の合併が完了すると、現時点の構図では2社のシェアが31.40%となり、これまで断トツでトップを走って来たテスコの27.60%を上回ることになります。
アズダのセインズベリーズへの売却はCMA(英国公正取引員会)の正式な承認が必要となりますが、承認された場合、2019年末までにすべての売却手続きが完了することになります。今回の合併により、2社の店舗は2,800店舗を超え、売り場総面積1,100万㎡で、総売上額510億ポンドの巨大企業となります。合併による効率化により約5億ポンドのコスト削減と、仕入強化により、商品販売価格を1割ほど下げることが可能になると見られており、相変わらず市場シェアと売り上げを伸ばし続けるアルディ(Aldi)とリドル(Lid)に対しても、大きな効果があると思われます。
売却後も、アズダの店舗バナーは変更しない予定とのことですが、英国の商業不動産情報誌であるエステーツ・ガゼット(Estates Gazette)誌によると、現在、アズダ店舗の23%と、セインズベリーズ店舗の12%が1キロ圏内でバッティングしているとのことです。そのため、ある程度の店舗の整理が発生すると予想されていますが、それぞれの企業がこれまで得意としてきた商圏と顧客層を有効的に活かすことで、英国における食品小売市場の勢力図がさらに大きく変わっていく可能性があります。
英国の2017年度の食品小売市場全体の規模は約1,920億ポンドであると、ドイツを拠点とする世界的データ統計配信企業であるスタティスタ(Statista)社から発表されています。これは、北米全体の市場規模(約6,400億ドル)の約4割程度ですが、英国の人口規模が北米全体の約2割ということを考えると、英国の食品小売市場がいかに競争の激しい市場であるかがわかります。
また、2社の合併は、英国で急速に存在感を強めているアマゾン(Amazon)への対抗措置ではないかと言われています。これは、ロンドンを拠点に国際的な金融サービス事業を行っているエンバーク・グループ(Embark Group)の調査部門最高責任者であるMr.Peter Toogood氏が、世界的経済ニュースチャンネルのCNBCの取材に対し述べたものです。
世界的調査会社であるグローバルデータ(Global Data)社によると、英国の小売市場全体で2017年の1年間に消費された金額の約4%が、アマゾンのプラットフォームであったとのことです。2017年の英国内のオンライン小売りの売り上げ伸び率は、全体が8.4%だったのに対し、アマゾンのプラットフォームでは22.5%と、アマゾンの脅威が増していることがわかります。また、2017年の英国におけるオンライン売り上げに占める割合は、2016年の29.6%から33.5%へと上がり、全体の3分の1を占めるまでになったということです。
食品小売に関しては、英国はアマゾンが食品宅配のアマゾン・フレッシュを導入している3ヵ国(アメリカ、ドイツ、英国)の一つであり、アマゾンが最重要視している国となっています。
更に、アマゾンは食品小売市場シェア8位のアップスケールスーパーチェーンのウェイトローズ(Waitrose)の買収に向けて交渉を続けているという一部の情報もあります。
次々と変化が起こり、転換期を迎えた英国食品小売市場の動向に今後も注目して行きたいと思います。
(2018.05.21配信)