転換期到来の英国食品小売市場

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ウォルマート(Walmart)が同社の傘下企業で、英国市場3番目のシェアを持つアズダ(Asda)を、シェア2番目のセインズベリーズ(Sainsbury’s)に売却することで合意したという大きなニュースが、4月末に発表されました。英国の食品小売市場については、今年の3月のメールマガジン「独アルディに対抗!英国小売業最新事情」にてご紹介したばかりですが、改めて最新事情をお伝えします。

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独アルディに対抗!英国小売業最新事情

独アルディに対抗!英国小売業最新事情

昨年は2度にわたり英国小売市場の情報をご紹介いたしましたが、今回は前回9月から約半年ぶりの英国最新小売業情報をお伝えします。英国の小売業は地形的・歴史的に米国に比べ、より日本の小売業に近いと言われており、注目すべき市場です。 まず、食品スーパーのマーケットシェアの最新情報をご紹介します。以下の表は、英国の市場調査会社である「カンター・ワールドパネル(Kantar Worldpanel)社」が、2018年2月25日までの12週間の数値を集計した最新の市場シェアランキングです。 ※2018年2月25日時点市場シェア(Kantar Worldpanel社データ) 順位小売企業名2/25シェア1年前前回対比売上2月25日1年前11テスコ(Tesco)27.90%28.00%▼0.10%2.70%22セインズベリーズ(Sainsbury's)16.20%16.50%▼0.30%1.10%33アズダ(Asda)15.60%15.70%▼0.10%2.30%44モリソンズ(Morrisons)10.60%10.60%0.00%2.70%55アルディ(Aldi)7.00%6.40%0.40%13.90%66コープ(Co-op)5.80%6.00%▼0.20%0.40%77ウェイトローズ(Waitorose)5.20%5.30%▼0.10%2.30%88リドル(Lidl)5.10%4.60%0.50%13.30% 全体を見ると、いわゆるビッグ4と呼ばれる上位4社のうち、3社が1年前よりもシェアを落としており、ドイツ発の2大ディスカウントチェーンのアルディとリドルが相変わらずシェアを伸ばしていることがわかります。このような構図はここ数年変わっていませんが、英国内におけるこの期間の食品小売の売上高は、前年同期比で3.2%伸びており、シェアを落している企業でも売上高を伸ばしています。 また、この12週間をベースにした売上高を見ていくと、英国の食品小売りは今回まで12期連続で対前年同期比3%以上の堅調な伸びを続けています。 前回対比(半年前の昨年8月)のシェアを基準に見てみると、アルディはほぼ変動が無く、リドルはシェアを落し、順位もウェイトローズと入れ替わっていますが、トップ4は軒並みシェアを回復しています。市場の寡占化が特徴と言われる英国の食品小売ですが、トップ4の全体におけるシェアが、昨年8月の調査の時点で初めて70%を割り、5年前の76.3%から69.3%まで落ちたものが、今回はわずかではありますが70.3%に回復しました。 ※この半年間のシェア変動 テスコ(Tesco)↑0.1%ビッグ4シェア:70.3%↑1.0%セインズベリーズ(Sainsbury's)↑0.4%アズダ(Asda)↑0.3%モリソンズ(Morrisons)↑0.2%アルディ(Aldi)0.00%アルディ&リドルシェア:12.1%     ↓0.1%リドル(Lidl)▼0.10% この半年間だけを見ると、ビッグ4を中心とした英国企業によるアルディとリドルへの対抗策が、徐々に結果を出し始めたことで、それまで20%近い伸びを続けていたアルディとリドルの伸び率にわずかながら影響を及ぼしていると考えられます。 前回9月の英国特集のメールマガジンに記載したテスコによる食品卸大手のブッカー(Booker)社の買収について、ブッカー社の投資家を中心とした反対運動により一時暗礁に乗り上げておりましたが、先日正式に規制当局による承認を得ることが出来ました。英国の高級紙タイムズ(Times)の日曜版であるサンデータイムズ(The Sunday Times)誌によると、テスコはアルディとリドルへの対抗策として、このブッカー社の買収による仕入力強化により、全く新しいディスカウントチェーンの設立を考えているということです。 現時点でこの新しい店舗の名称やオープン時期をはじめとした詳細は発表されておりませんが、長年に渡り英国の食品小売市場をけん引してきたテスコの新たな取り組みからも目を離せません。 (2018.3.12配信)

テスコ(Tesco)、セインズベリーズ(Sainsbury’s)、アズダ(Asda)およびモリソンズ(Morrisons)の4社がビッグ4と呼ばれて久しい英国の食品小売市場ですが、今回の合併が完了すると、現時点の構図では2社のシェアが31.40%となり、これまで断トツでトップを走って来たテスコの27.60%を上回ることになります。

アズダのセインズベリーズへの売却はCMA(英国公正取引員会)の正式な承認が必要となりますが、承認された場合、2019年末までにすべての売却手続きが完了することになります。今回の合併により、2社の店舗は2,800店舗を超え、売り場総面積1,100万㎡で、総売上額510億ポンドの巨大企業となります。合併による効率化により約5億ポンドのコスト削減と、仕入強化により、商品販売価格を1割ほど下げることが可能になると見られており、相変わらず市場シェアと売り上げを伸ばし続けるアルディ(Aldi)とリドル(Lid)に対しても、大きな効果があると思われます。

売却後も、アズダの店舗バナーは変更しない予定とのことですが、英国の商業不動産情報誌であるエステーツ・ガゼット(Estates Gazette)誌によると、現在、アズダ店舗の23%と、セインズベリーズ店舗の12%が1キロ圏内でバッティングしているとのことです。そのため、ある程度の店舗の整理が発生すると予想されていますが、それぞれの企業がこれまで得意としてきた商圏と顧客層を有効的に活かすことで、英国における食品小売市場の勢力図がさらに大きく変わっていく可能性があります。

英国の2017年度の食品小売市場全体の規模は約1,920億ポンドであると、ドイツを拠点とする世界的データ統計配信企業であるスタティスタ(Statista)社から発表されています。これは、北米全体の市場規模(約6,400億ドル)の約4割程度ですが、英国の人口規模が北米全体の約2割ということを考えると、英国の食品小売市場がいかに競争の激しい市場であるかがわかります。

また、2社の合併は、英国で急速に存在感を強めているアマゾン(Amazon)への対抗措置ではないかと言われています。これは、ロンドンを拠点に国際的な金融サービス事業を行っているエンバーク・グループ(Embark Group)の調査部門最高責任者であるMr.Peter Toogood氏が、世界的経済ニュースチャンネルのCNBCの取材に対し述べたものです。

世界的調査会社であるグローバルデータ(Global Data)社によると、英国の小売市場全体で2017年の1年間に消費された金額の約4%が、アマゾンのプラットフォームであったとのことです。2017年の英国内のオンライン小売りの売り上げ伸び率は、全体が8.4%だったのに対し、アマゾンのプラットフォームでは22.5%と、アマゾンの脅威が増していることがわかります。また、2017年の英国におけるオンライン売り上げに占める割合は、2016年の29.6%から33.5%へと上がり、全体の3分の1を占めるまでになったということです。

食品小売に関しては、英国はアマゾンが食品宅配のアマゾン・フレッシュを導入している3ヵ国(アメリカ、ドイツ、英国)の一つであり、アマゾンが最重要視している国となっています。

更に、アマゾンは食品小売市場シェア8位のアップスケールスーパーチェーンのウェイトローズ(Waitrose)の買収に向けて交渉を続けているという一部の情報もあります。

次々と変化が起こり、転換期を迎えた英国食品小売市場の動向に今後も注目して行きたいと思います。

(2018.05.21配信)

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