先月のメールマガジン、「売上拡大を支える、アマゾンのプライベートブランド戦略」にて、アマゾンのプライベートブランド(以下PB)についてご紹介しましたが、今回のメールマガジンでは、競争が激化している米国のPB市場をご紹介したいと思います。
2017年の米国小売市場におけるPBの占有率は、約17%です。これは、世界中に4,000以上の会員企業を持ち、PB促進を目的に1979年に設立されたPLMA(Private Label Manufacture’s Association〜プライベートレーベル製造者協会)の発表によるものです。日本の市場のPB占有率は約10%ですので、日本と比較すると米国は高い数値になりますが、ヨーロッパでは、20か国中15か国でPB比率が30%を超えており、まだまだ米国の市場も広がる可能性があります。
シカゴを拠点にしている市場調査およびコンサルティングを行っているマーケット・トラック社(Market Track)によると、食品小売りに限定したPB比率では、米国の約24%に対して、ヨーロッパでは70%にも達するということです。ヨーロッパは小売市場における上位少数企業による市場の寡占が進み、他社との差別化を図る必要性が高いため、PBへの取り組みが積極的に行われているからだと言われています。
以下がヨーロッパでPB比率の高い国のリストです。
順位 | 国名 | PB比率 |
---|---|---|
1 | スペイン | 52% |
2 | スイス | 51% |
3 | イギリス | 46% |
4 | ドイツ | 45% |
5 | オーストリア・ベルギー | 43% |
米国小売市場におけるPB比率は、2009年あたりから足踏み状態が続いており、ヨーロッパのように伸びてはいませんでしたが、世界最大のマーケティング調査会社のニールセン社(Nielsen)によると、2017年は前年対比で約10%の売り上げ増となったということです。また世界的PBの開発会社であるデイモン・ワールドワイド社(Damon Worldwide)による最新の調査では、消費者の81%が買い物をする際に必ずPB商品を購入しているとのことです。
こうした調査からも、ここ数年で米国のPB市場が拡大していることがわかります。
米国のPB市場の拡大の背景には、PB比率が90%を超える独のアルディやリドルの米国進出があります。PBの大きなメリットとして、NB(ナショナル・ブランド)に比べ安価での仕入れが可能となり、よりリーズナブルな価格設定による差別化と、魅力的なオリジナル商品の開発によるブランディング面での差別化の2つが挙げられます。PBの強みを活かした事業を展開するアルディやリドルに対抗するため、米国の小売企業も取り組みを強化したと考えられます。
以下は、前述のマーケット・トラック社による、2016年度の北米における「食品・飲料」部門における代表的企業のPB比率のデータです。
※マーケット・トラック社データ
食品・飲料部門では、ウォルマートとクローガーの比率が高くなっていることがわかります。
ウォルマートは昨年5月のメールマガジン‘競争激化でも売り上げを伸ばす!ウォルマートの価格戦略’でもご紹介しましたが、積極的且つ戦略的なプライスマッチングにより、価格競争を勝ち抜いてきた企業です。
ウォルマートにとってもPBへの取り組みは価格戦略および顧客ロイヤリティの確保の両面で不可欠なものであり、2014年、現在のCEOであるダグ・マクミロン氏(Doug McMillon)の就任以降更に強化されました。
今年に入ってからも、PBのミールキットを導入し、年内に北米2,000店舗で利用できるようにすると発表するなど、今後もPB強化を加速していくと見られています。また、オンラインで注文し、店舗で受け取ることができる‘グローサリー・ピックアップ’にも対応可能とするなど、よりシームレスな購買体験の提供による顧客ロイヤリティのアップも忘れていません。
ウォルマートは、圧倒的仕入ボリュームによるNBメーカーとの価格交渉だけではなく、PBの強化が必須事項となり、積極的な商品開発に着手し始めたと考えられます。
全米最大のスーパーマーケットチェーンであるクローガー(Kroger)は、オーガニックPBであるシンプル・トゥルース(Simple Truth)の売上が2017年に200億ドルを突破し、同社の年間売り上げ全体の約26%を占めるまでになりました。クローガーは、価格と商品の差別化の両面で成功した事例と言えます。
また、デイモン・ワールドワイド社(Damon Worldwide)による最新の調査では、消費者85%がPBの品質に関して、従来のNBと同等あるいはそれ以上と答えているということで、PBへの信頼感の高さも伺えます。
また、全米で常に人気トップを争うウェグマンズ(Wegmans)が、今年の3月から同社のPB食品(青果、乳製品、冷凍食品、パーッケージ食品)の値段をアルディ並みに引き下げたと、ウェグマンズ本社のあるロチェスターの地元紙であるデモクラット&クロニクル(Rochester Democrat & Chronicle)が報じています。
高品質で健康に配慮した食品とサービスで、アップスケールな企業として認識されているウェグマンズでさえ、価格競争で生き残るために同社PB食品の値下げに踏み切ったわけです。
ウェグマンズは全SKUの約15%が同社のPBと言われていますが、全体の売り上げベースでは少なくても40%を占めていると、アメリカの食品業界向け専門サイトであるフード・ワールド(Food World)の代表であるジェフ・メッツガー(Jeff Metzger)氏は述べており、この数値はPB戦略上特筆すべきとのことです。
eコマース市場の調査会社であるワンクリックリテール社(One Click Retail)によると、アマゾンの2017年のPBの売り上げは約4.5億ドルで、同社の売り上げ全体に占める割合はわずか0.2%ほどということです。しかしながらアマゾンはまだPBへの取り組みを開始したばかりで、今後急速に伸びてくると見られています。
この「アマゾン時代(Amazon Era)」を生き延びるためには、デジタルへの投資と新たなPB戦略の2つが必要と言われていますが、北米では既にPB市場の競争は始まっており、アマゾンのPBへの本格的な取り組みに伴い、さらなる競争激化が予想されます。
今後も、競争が激化している各社のPBへの取り組みに注目をしていきたいと思います。
(2018.04.10配信)